始めぱらぱらと降り始めた雨は、やがてドシャバシャと、本格的な夕立に変わった。
連日の真夏のような気候に油断して傘を持っていなかった人々が、一斉に小走りで商店街を駆け出し始める。 雨足は次第に強くなり、周囲の景色が白く煙り始めた。
小さな折り畳み傘では雨を防ぎきることが出来ず、僕は大勢の人に混じって、シャッターを下ろした商店の軒先に逃げ込んだ。
僕の隣で、大して不満でもなさそうに、突然の夕立に文句を言う二人組のおばあさん。 ハンカチで服を拭くスーツ姿の女性。 自転車に乗ったまま空を見上げる少女。
僕はとりあえず煙草に火をつけて、雨の様子をうかがった。 ついさっきまで賑わっていた商店街も、途端に人通りが絶えた。 無人の商店街を快適そうに車が走り抜ける。
ぼおっと周囲を見ていると、傘を持っていない人が多い中で、濃い化粧をした女性は必ず傘を持っていることに気付く。 なるほど、と思う。
雨はしばらく止みそうにもないので、10メートルほど先のスーパーに走り込む。 野菜売り場のひんやりとした空気が、濡れた体に染み込む。 鮮魚コーナーで、刺身を見る。 迷った末に、生カツオにする。
店を出ても、雨は相変わらずで、僕は紙袋に入った本が濡れないように注意しながら家路に着く。 雨が坂を川のように流れる。 絵に描いたような、典型的で圧倒的で妥協の無い夕立の中を歩いて、少し嬉しくなる。 今日は、一年に一度の、「夕立激しく暴れ狂い放題の日」なのだ。